スポーツ現場へのGPSデバイスの普及が進んでいます。走行距離、スプリント回数、加速・減速——これらの数値はトレーニング管理に役立つ一方で、「数値を達成すること」が目的になってしまっているケースも見かけます。
スポーツサイエンス研究者のMartin BuchheitとTom Littleが2025年に発表したレポート「Slaves to (GPS) norms」では、この問題を正面から指摘しています。GPS基準値(過去の平均値)には、パフォーマンスや傷害リスクの観点から「最適」と言える実証的根拠はなく、現在の数値が示しているのはそのチームがこれまでどのくらい行ってきたかという実績の反映に過ぎない、というものです。

Little T & Buchheit M.「Slaves to (GPS) norms」Sport Performance & Science Reports, 2025. https://sportperfsci.com/slaves-to-gps-norms/
私自身、現役時代にこの疑問をずっと持っていました。走行距離やスプリント回数が目標値をクリアした週に、試合でのパフォーマンスが思ったより出なかったことがあります。逆に、数値的に「低調」な週なのに、試合では良い動きができたこともありました。
GPSが計測できるのはフィジカルの一側面です。試合の勝負を分ける予測・状況判断・駆け引き・ポジショニングといった要素は、数値化できません。走行距離が多い選手が試合でも活躍するとは限らず、少ない移動で常に正しい位置にいられる選手が「低活動」に見えることもあります。
特に育成年代においては、この点が重要です。GWORKS PERFORMANCEに来ている高校サッカー選手から、GPSの数値でAチームとBチームの振り分けが行われているという話を聞きました。数値を稼ぐ動きを優先することで、戦術的な判断力や駆け引きを磨く機会が失われていくとしたら、長期的な選手育成の方向性としては問題です。
GPSは否定するものではありません。疲労管理や急激な負荷増加の把握には有効なツールです。ただし、「数値を正確に管理すること」はこの道具の機能であって、コーチングの目的ではない。コーチの仕事は、選手が試合で力を発揮できる状態をつくることです。GPSはその目的に向けた情報源の一つに過ぎません。
道具を目的にしてしまうと、選手にとって本当に必要なものが見えなくなります。
この問題についての考えを、現役時代の経験とコーチとしての視点から詳しくまとめました。GPSとどう向き合うべきか、ぜひ読んでいただければと思います。